ビットコインなどの仮想通貨を相続し、売却した場合110%の税率がかかるのか?

ネット記事や会計事務所のコラムなどで最近よくビットコインなどの仮想通貨を相続し売却した場合、最高で110%の税を取られ、
保有している資産の価値以上の納税義務を負う可能性がある、などと書かれており、不安を持つお客様もいらっしゃいます。

なぜ110%もの課税になるのか
こういった記事に書かれている内容は以下のようなものです。

(前提)
1,亡くなられた被相続人が生前仮想通貨を1万円で購入
2,被相続人が亡くなられた時点で仮想通貨の評価が100億円
3,引き継いだ相続人が仮想通貨を100億円で売却

この場合、2の相続開始時点で相続税が55%かかり55億万円の納税が発生します。
3の売却時点で100億円の売却に対し所得税・住民税が55%かかり
55億円の納税が発生し、合計110億円納めることになります。
(相続税や所得税の計算方法については簡略化しております)
このため持っていた資産(仮想通貨)よりも10億円多い税金を納めることになり
破産してしまいますよ、とネット記事などには記載されています。

こういった記事の問題点は、2つあります。
・仮想通貨に対する法整備が遅れている
・譲渡所得と雑所得を混同している

本来の租税原則にいう公平な租税とは、「担税力に応じて課された租税」ということで、
資産(担税力)を超えた110%課税は、原則から大きく逸脱している、と考えます。
法整備がされてないため、根拠が乏しいまま記事にしていると思われますが、
記事にする前に、何かおかしいと考える余地はあっても良いのではないでしょうか。

こういった記事には、仮想通貨の売却については譲渡所得ではなく雑所得だから
相続税の取得費加算(※)の適用ができないため、
さらに仮想通貨の取得費は被相続人が取得した価格の1万円を引き継ぐため
110%課税になります、と記載されています。

(※)相続税の取得費加算とは、
相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を一定期間内に譲渡した場合に、
相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度。
具体的には、上記の例で、この特例が利用できた場合、相続税の55億円を、
売却時の取得費(経費)として計上することができ税額を大きく減少させることが可能です。

現在の整備されていない法律上、仮想通貨の売却は雑所得として扱われ、
この取得費加算の適用は難しいのでは、と思っています。
しかし、相続後の売却時に取得費を被相続人の取得費1万を引き継いでいることは疑問です。
この取得費を引き継ぐのは、譲渡所得となる資産について規定されている財産であって
金銭債権として扱われている仮想通貨については、取得費の引継ぎの対象外です。
(所得税法59、60)

仮想通貨の売却時の課税を、金銭債権の売却として雑所得扱いにしているにもかかわらず、
譲渡所得の資産として、取得費は被相続人の購入した金額1万円を引き継ぎますよとこちらは譲渡所得扱いとして、
さらに雑所得なんだから、相続税の取得費加算の適用はできません、と「雑所得」と「譲渡所得」を
110%課税の方向へ誘導しているように感じます。

現行の法律通り、金銭債権の譲渡として雑所得課税されるのなら、
単純に55%ずつ課税されるのではなく、上記(前提)のケースにおいて以下のように計算されるはずです。

相続開始後の準確定申告において
100億円の金銭債権の評価差益に対して所得税・住民税が55億円、
その後、相続税申告時に、財産(仮想通貨100億円)から債務(所得税住民税55億円)を差し引いた45億円に対し55%の相続税約25億円が課されます。
相続人が仮想通貨を100億円で売却する際には、取得費は引き継がず、
相続時の評価を取得費として、収入(100億円)から取得費(100億円)を控除し、所得0円で所得税・住民税は課されません。
この場合の税負担は所得税・住民税55億円と相続税25億円の80億円となり、税負担は80%となります。
取得費加算を摘要できた場合とかわりませんが、それでも高額です。
今後、税制改正で整備されると思いますので、税制調査会や国会での議論を注視していこうと思います。